認知症と相続の関係 Dementia

ファミリー背景画像 ファミリー背景画像1 ファミリー背景画像2 ファミリー背景画像3 ファミリー背景画像4

認知症と相続
について

遺産を相続する相続人が健康であり、自分に関する相続の手続きについてしっかりと判断や意思決定できる場合には特に問題ありません。しかし相続人が認知症である場合は、本人が不利益を被らないためにも注意する必要があります。今後相続にかかわる可能性のある人たちの判断能力がはっきりしているうちに、予め対策を検討しておきましょう。

相続と認知症について

イメージ図1

相続と認知症と言われても、なぜ相続の手続きに認知症の話が関係してくるのかよくわからない方もいるでしょう。実は、相続手続きを進めるにあたって関係者の中に認知症の人がいる場合、その影響を全てのが受けることになるからです。「今現在は関係者にそういう人はいないから」と思っていても、決してひとごとではありません。日本はこれから超高齢化社会をむかえ、将来的には高齢者の5人に1人が認知症になる可能性があると予想されているほどです。

では関係者の中に認知症の人がいた場合どのような影響があるのかというと、まず遺産を残す人(被相続人といいます)が認知症だった場合は、遺言書の有効性などに疑問符が付きます。また遺産を受け取る人(相続人といいます)が認知症の場合、そのままにして遺産の分割協議をおこなうことは出来ません。判断能力の低い認知症の相続人は、自身の利益を保護できないという判断からです。そのために後ほど説明する成年後見人という制度を利用することになります。またそのような手続きや準備などが必要なため、状況によっては想定していたよりも余計に時間がかかる可能性があります。相続手続きは相続の開始から10ヶ月以内に完了することが期限として決まっているので、あまり時間がかかっていてはこの期限を過ぎてしまう可能性が出てきます。

このように相続の関係者に認知症の人がいる場合は、遺産相続の進行そのものに影響を及ぼします。そのため事前にその影響を少しでも小さくするための理解を深めておく必要があります。

認知症になる前に
事前の準備を!

ではまず、遺産を残す人(被相続人)が認知症になる前にやっておくべき準備のお話をしたいと思います。これはなにも「そのような兆候が見られたからおこないましょう」という話ではなく、今後いつそのような状態になっても大丈夫なように、事前に準備出来ることはやっておくようにしましょう、というお話になります。では具体的に見ていきましょう。

家族信託の活用

認知症への対策だけではなく、家族間での財産管理の新しい形として近年人気を集めているのが「家族信託」です。その概要について簡単に言ってしまうと、「家族の中で現在財産を管理している人が、将来加齢や認知症によって自分で財産を管理できなくなった時に備え、あらかじめ家族の誰かに財産の管理・運用・処分などをすることのできる権限を渡しておく」という制度です。成年後見人制度や遺言書と一部似ているところもありますが、認知症対策のみではなく、将来の色々なリスクに備えて財産管理の権限をより柔軟に委譲できるというのが家族信託の魅力です。また信託する相手は家族になりますので、負担になるような費用が発生しないこともメリットの一つです。

任意後見人の契約

遺産を残す予定の人が心身ともに元気で、まだ認知症になっていない状態であれば、成年後見人を自ら指名する「任意後見制度」を利用することができます。信頼のおける身近な人などを成年後見人として選んで、任意後見契約を結んでおきます。この契約を結んでおくことで将来本当に認知症になってしまった場合、財産の管理や身辺の保護を委任することが出来るようになります。また、本人が認知症になるまではその効力は発生しないため、将来の認知症リスクへの対策として結んでおくことが可能です。

遺言書の作成

遺産の相続において、最も優先されるべきは遺産を残す人の意思です。そのため本人が亡くなった後、法的に有効な遺言書が存在すればその内容に沿って相続がおこなわれます。遺産を残す予定のある人は、認知症などの兆候が出る前の元気なうちに遺言書を作成しておくことをお勧めします。
有効な遺言書作成の条件として、民法上には「遺言能力のある人(民法963条)」という記載があります。ですのでもし遺言書を作成する前に認知症になってしまった場合は、法的に有効と認めれる遺言書が作成出来なくなってしまう恐れがあります。準備がそろっていれば、なるべく早い段階で取り掛かる方が良いでしょう。

相続人が認知症の場合には
どうなるの?

イメージ図2

ここでは相続人の方が認知症になってしまった場合についてお話したいと思います。その場合、特に問題なのは遺産分割協議についてです。遺産分割協議とは、遺産を残す人が遺言書を残さなかった場合などに、相続人としての権利を持つ人達が全員で遺産の分配の仕方を決める協議のことです。この遺産分割協議では、全員の参加による意思決定が決まりとなっていて、認知症の相続人であってもその人を除いた状態での協議は無効となってしまいます。ではどう対処するべきなのでしょうか?

認知症の相続人と遺産分割協議

何度も説明している通り、遺産分割協議は全員の参加が原則です。しかし、判断能力のない認知症の相続人は協議に参加することはできません。つまり、遺産分割協議自体の開催が難しくなってきます。このようなケースで、何も対処する方法や制度が無ければ身動きが取れなくなってしまいます。 しかし、認知症の相続人がいる場合でも遺産分割協議が可能となる方法があります。それが「成年後見制度」です。

成年後見制度とは

成年後見制度とは、認知症や知的障害などによって判断能力が低下した人の身辺や利益の保護を支援するために、成年後見人という保護者のような役割の人をつける制度です。これには「任意後見」と「法定後見」の2種類があります。

成年後見制度を利用する流れ

【任意後見制度の場合】

任意後見制度の場合は遺産を残す本人が、将来自分が認知症になった場合に後見人となってくれる人を選んで任意後見契約を結ぶものです。また、この任意後見契約の場合は、自分で後見人を選ぶことが出来ると同時に、何を支援してもらうかという内容を決めておくことなどもできます。より具体的には以下の通りです。

・生活や介護、療養などについて
・不動産を含む財産の処分などについて
・任意後見人に支払う報酬や経費について

任意後見契約書については、公正証書で作成する必要があります。そのため将来的に認知症になった場合、後見人に支援してもらう内容についてあらかじめ話し合い、その案をとりまとめたものを公証役場に持ち込みます。このあたりの内容は公正証書で遺言書を用意する場合と同じ手順ですので、イメージがつく方もいるかもしれません。その後、任意後見契約が結ばれた後は本人の判断能力が不十分になった段階(認知症になってしまった時点)で家庭裁判所に対して申立てを行ない、選任が行われたらいよいよ後見人としての仕事が始まることになります。

【法定後見制度を利用する場合】

法定後見制度の場合は、相続人がすでに認知症になってしまっている場合などに、判断能力が低下した本人(成年被後見人といいます)の住所地を管轄している、各家庭裁判所に対して申し立てをおこなって、成年後見人を選んでもらう制度です。

申し立ての際に提出する書類に、後見人になってもらいたい希望の人を記入することが出来ますが、これは必ずしも叶えられるとは限りません。たとえ親族であっても却下される可能性もあります。その場合は家庭裁判所が独自に保持している候補者の名簿の中から、適当であると判断された人が裁判所の権限によって選任されます。このようなケースであれば、司法書士や弁護士などの専門家が選ばれることが多いといえます(むしろ親族で決まる可能性の方が少ないかもしれません)。これはどうしてかというと、家庭裁判所では申し立ての時に提出された書類内容をもとに、本人にとって一番有益な人を選任すべく検討をおこなうからです。

ちなみに成年後見制度についての詳しい解説などは以下の成年後見人の基礎知識ページで詳しく解説しています。あわせてご覧ください。
成年後見人の基礎知識

認知症の方と相続放棄
について

イメージ図3

相続放棄というのは、亡くなった人が遺産ではなく借金などを残している場合、相続人となる人がそのマイナスの遺産を引き継がなくてもいいように相続自体を放棄するというものです。もし相続放棄を選択した場合、民法上の解釈としては「最初から相続人ではなかった」とみなされます。当然のことながら本人がその選択をするという「意思決定」が必要なのですが、判断能力が低下している認知症の人が相続人の場合、相続放棄をすることは可能なのでしょうか?

判断能力が必要

相続放棄をするには、やはり判断能力がポイントになります。認知症の人がご自身で判断して相続放棄をすることは不可能です。かといって、身近な人や親族の人が代わりに放棄させることもできません。万が一やったとしてもこれは無効となってしまいます。そのため認知症の相続人がマイナスの遺産について相続放棄を使用とした場合、先にお話しした成年後見制度を利用することになります。

成年後見制度を利用する

成年後見制度の項でもお話した通り、認知症の相続人は後見人なしには遺産分割協議に参加することもできません。相続放棄も同じで、認知症の人がマイナスの遺産を放棄したい場合は、成年後見人をつけてその後見人に相続放棄の申請を代わりに行ってもらう形になります。もし認知症を発症するまでに自分で後見人を見つけていた場合は任意後見人、特になにも準備していなかった場合は必然的に法定後見人が相続人本人のサポートをおこなうことになります。

利益相反とは?

成年後見人の権限についてはこのようなマイナスの遺産の放棄などは可能ですが、預貯金の解約や資産の運用など認知症の本人に不利益となるような決定をすることは出来ません。これを利益相反(りえきそうはん)といいます。要するに本人が損をする可能性のある意思決定を代わりにすることは出来ないのです。ですので結果的には認知症の相続人の財産は、家庭裁判所の監督下にあるというような見方も出来ます。

これをもう少し柔軟に身内の近しい親族に財産管理の権利を委譲したり、遺産を残す人の希望を反映させたりしようとすれば、また別の「家族信託」という制度を利用する方法もあります。その柔軟性から、近年利用者が増えている制度です。

成年後見人の選任と期間

マイナスの遺産を放棄しようと考えた場合、相続が開始してから3ヶ月以内に放棄の手続きをしなければなりません。しかしこの時点で、認知症の相続人に対して後見人の準備をしていない場合は法定後見制度を申請することになり、この認定までには一般的に数ヶ月かかります。そうなると、肝心の相続放棄の期限までに後見人の準備が間に合わない可能性も出てきます。 もし近い将来相続関係の当事者となる可能性があるならば、出来るだけ早いうちから成年後見人制度の利用について準備をしておくことをお勧めします。

手続きの終了と成年後見人

成年後見人については、相続放棄のためだけに存在しているわけではありません。相続放棄の手続きを代わりに行った後も、成年後見人として一度選ばれた後は認知症の本人が亡くなるまで、財産管理や身上監護を行う義務が発生します。そのため法定後見人には親族であっても希望通りに選任されることは少なく、一般的には弁護士や司法書士などの第三者が選任されることも多くなっています。 いずれにせよまずは現在の状況を把握したうえで、早めの準備を心がけるようにしましょう。

冒頭でも解説した通り、超高齢化社会を迎える日本では認知症と相続の関係は重要なものになっています。ご自身や残された人の利益の保護を考えれば、とにかく早めに色々な状況をシュミレーションしておくことが大切です。一度、ご家族とも話し合ってみましょう。