成年後見制度の基礎知識 Guardian

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成年後見人
について理解しよう

あなたは成年後見人(せいねんこうけんにん)という言葉を聞いたことがあるでしょうか?一般の方にはあまり馴染みの無い言葉かもしれません。しかし相続手続きにおいても非常に重要な役割を担っており、判断能力が低下した方などの財産を保護する力をがあります。どのような制度で遺産相続とどのようにかかわってくるのかなど、詳しく解説していきたいと思います。

成年後見人ってなんですか?

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遺産相続などの個人の利益が関係してくる手続きにおいて、一般的な判断能力を持っている人であればその意思決定に特に不安はありません。一方的に騙されたり、利用されたりすることは考えにくいからです。しかしそれが認知症の人であった場合はどうでしょう?知らずにそのような危険なトラブルに巻き込まれる可能性は高くなってしまいそうです。

そんな状況で、判断能力の低い人の財産を守る力をもつのが「成年後見人(せいねんこうけんにん)」と呼ばれる人々です。正式には、「家庭裁判所から選任されて認知症や知的障害で判断能力が低下した方の財産などを保護する」という役割を持った人のことをいいます。

成年後見人に選ばれると最終的には家庭裁判所の監督のもと、判断能力の低下した方の財産などはこの成年後見人が管理をおこないます。それ以外にもいくつか権利があり、例えばご本人が1人でなんらかの契約(法律行為等)をむすんでしまったとすると、その契約を取り消したりすることも可能です。また周囲の親族にも影響力を持っていて、成年後見人の同意なくご本人の財産を処分したりすることが出来なくなります。こういった強力な権利をもつことで、結果として認知症などの方の財産が守られることになります。

ちなみに「認知症と相続の関係」については、以下のページで詳しく解説しています。あわせてご覧ください。
認知症と相続の関係について

成年後見人による
遺産相続

成年後見人をつける方法

成年後見人をつける方法としては、次のような選択肢があります。

① 認知症などになる前に、事前に本人がなってもらう人を選んで契約をしておく
② 認知症などになった後に、家庭裁判所に選んでもらう

必要となる本人が現在どのような状況なのかによって選択肢が変わります。2つのうち、本人が自分で選ぶ方法を「任意後見」、家庭裁判所に選んでもらう方法を「法定後見」といいます。任意後見については、本人に十分な判断能力があるうちにあらかじめ後見人を選んで契約しておくという制度なので、すでに認知症などで判断能力が低下している状況では選択できません。その場合は2番目の法定後見のみとなります。

任意後見 認知症などになる前に、本人がなって
もらえる人を選んで契約しておく方法
法定後見 認知症などになった後に、家庭裁判所に
選んでもらう方法
遺産相続で必要となるケース

では、成年後見人が遺産相続で必要となるケースについてみていきましょう。相続する本人が認知症などの場合、明確に有効な遺言書が残されている場合などを除いて、遺産分割協議などの遺産の分配方法に対する話し合いをおこなうようなケースにおいては、成年後見人が必要になります。当然ですが、遺産分割などは相続する人たちの財産に大きな影響を与える行為です。そのため、相続人の中に判断能力が著しく低い人がいた場合はきちんと保護されなければなりません。

この場合であれば成年後見人がいなければ、判断能力の低下した本人が1人で遺産分割協議に参加することは出来ません。成年後見人がその「代理人」となって代わりに遺産分割協議に参加し、ご本人の権利と相続するべき遺産を保護することになります。

認知症と遺産分割協議

結果的に相続人全員の取得分が平等に分配されれば、無理をして遺産分割協議に参加しなくてもいいのではないか?という疑問もあるでしょう。そのような考え方もありますが、そもそもまず遺産分割協議自体が「相続人全員が参加しなければならない」という原則があります。そこに認知症の人を除外するということは出来ません。というよりは、万が一相続人の中に認知症などの人がいた場合には、遺産協議自体が開催できません。個人の利益に大きく関わることなので、そのぐらいしっかりと決められているのですね。

そこで相続が開始した段階で認知症などの相続人にまだ成年後見人が付いていない場合は、「遺産分割協議の前」にまず家庭裁判所で「法定後見人を選んでもらう手続き」をおこなわなければなりません。これは相続人全員にかかわることなので、その後の相続手続きをスムーズに進めるためにも、関係者全員でサポートしていきたいものです。

遺言書があれば不要ですか?

冒頭でも少しお話ししましたが、もし亡くなった方(遺産を残した方)が法的に有効な遺言書を残していた場合は、その遺言書に沿って遺産分割がおこなわれます。そのため何か問題がおきない限りは遺産分割協議をおこなう必要はありません。これは遺産相続においては、遺産を残す方(被相続人といいます)の意思が一番に優先されるという原則があるからです。そのため有効な遺書書がある場合には、成年後見人が必要無いケースもあります。いずれにしても判断能力の低い相続人の財産はきちんと保護されなければなりませんので、ご自身やその身近な人で該当するようなケースがある場合は、慎重な準備を心がけましょう。

家庭裁判所への成年後見人
の選任申立方法

次に、家庭裁判所へ成年後見人の選任を申し立てる場合の方法をみていきましょう。この選択肢を選んでいる時点で、後見人が必要な本人はすでに十分な判断能力が無いという可能性が高くなります。つまり、しっかりと理解しておかなければならないのは「その周りの身近な人」となります。以下の内容を参考にしてください。

選任の申立先

成年後見人の選任の申立先は、判断能力が低下した本人(成年被後見人といいます)の住所地を管轄している、各家庭裁判所となります。

選任申立に必要な書類

選任の申立をする際には、管轄の各家庭裁判所に以下のような書類を提出します。ただ、全部をご紹介すると非常に長くなりますので、ここでは主要な書類に絞ってご紹介していきます。

申立書

申し立てをおこなうにあたっての申請書となります。内容としては、後見人を付けたい本人についての記載や、後見人の候補者の希望などを記載していきます。ただし、実際の選任に関して、こちらの希望通りにいくとは限りません。申立書を受け取った後で家庭裁判所は、ご本人の財産や病気の状況、親族間の意見の相違など様々な観点から検討し、選任をおこないます。申し立てをおこなった人の希望通りにいくわけではないことを覚えておいてください。

申立事情説明書

本人の状態に関するアンケートのようなものになります。現在はどこの施設にいてどのような健康状態にあるのかや、候補者の希望とその理由、親族の意見、など必要な項目をうめていきます。ですので、可能であればご本人の事をよく知っている方に相談して記入するようにしましょう。

親族の関係図

ご本人に関係する親族がどの程度いて、保護を行っていくうえで協力を得られそうなのは誰なのかを判断するために用いられます。この親族の関係図はその他の法律の専門家などに相談する場合にも、あると話合いがスムーズに進みますので、余裕があれば一度作っておくことをお勧めします。

本人の財産関係の書類

本人の財産目録や本人の収支予定などを、必要であれば資料と共に提出します。後見人の目的として一番大きなものは本人の財産や利益の保護ですので、まず本人の財産や収支の状況などを把握するために必要です。

診断書

家庭裁判所が定める様式に従った診断書を医師に書いてもらい、準備しましょう。

以上、成年後見人の選任に関する申し立てをおこなう際に必要な書類についてご紹介しました。これらの書類以外にも必要な書類が様々ありますので、実際に行う際には管轄の各家庭裁判所に確認をしてください。

成年後見人には
誰が選任されるの?

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希望の候補者が選任されるとは限らない

前の章でもお話しましたが、成年後見人の希望を記入したからといって、その人が希望通りに選任されるとは限りません。たとえ本人にとって身近な親族の人を候補者として希望したとしても、その通りに選任されないこともあります。これはどうしてかというと、家庭裁判所では申し立ての時に提出された書類内容をもとに、本人にとって一番有益な人を選任すべく検討をおこなうからです。

では、候補となる人がいない場合はどうなるのでしょう?その場合は家庭裁判所が独自に保持している候補者の名簿の中から、適当であると判断された人が裁判所の権限によって選任されます。このようなケースであれば、司法書士や弁護士などの専門家が選ばれることが多いといえます。

成年後見人の欠格事由

そもそも「成年後見人になることが出来ない」という人もいます。成年後見人の欠格事由として、民法847条では、次のような人が定められています。内容をみてもあまりこのような人を候補にすることは無いかと思いますが、身近な人が知らなかったという場合も考えられますので気を付けましょう。

・未成年者
・家庭裁判所で免ぜられた法定代理人、保佐人又は補助人
・破産者
・被後見人に対して訴訟をし、またはした者並びにその配偶者及び直系血族
・行方の知れない者

成年後見人の権限の範囲

財産を勝手に処理できるような権利は無い

成年後見人の効力というのは、あくまで認知症などで判断能力が低下した人の財産を守るためのものです。ですので、当然別の人間や後見人本人の利益のために存在しているわけではありません。成年後見人に親族が選任されようが、その他の第三者の専門家が選任されようが、認知症の人の財産や利益は最終的に家庭裁判所が間接的に管理・監督するのと同じ意味になります。つまりは、本人の財産や利益を守るような協議内容にしか応じることができないのです。

1つ例をあげてみます。例えば相続人全員で遺産分割協議をおこなった場合、その中で「認知症の相続人の配分割合だけが下げられる」ような提案がされたとします。このような場合、代理人として判断する成年後見人はそもそも立場上「応じる」ことができません。逆に「認知症の相続人がより多くの利益を得る」ような提案であれば、応じることができます。つまり、本人が不利益を被るような意思決定を成年後見人はすることができないのです。

守られるべきは本人の利益ですので、成年後見人の権限もこのように決められています。

認知症などで判断能力が低下した方にとって、成年後見人は最大の味方といえるでしょう。しかし、その選任から決定までには決して短くない時間と手間がかかります。そして、不測の事態は急にやってくるものです。何かあったときのためにも、余裕のある時にこそ一度しっかりと考えてみましょう。1人では不安な場合は、地域の信頼のおける司法書士などの専門家に相談してみてください。