司法書士が自筆証書遺言をおススメしない4つの理由

あおば司法書士事務所の松本です。

司法書士業務のひとつとして、遺言書の作成支援を行っております。遺言書については、自筆証書遺言、公正証書遺言の2択のなかから、選んでいただいております。民法では、秘密証書遺言や一時危篤時遺言などの制度もありますが、ほとんど利用されていないと考えます。

私は、自筆証書遺言と公正証書遺言のどちらがいいですか?と尋ねられた場合には「公正証書がいいですよ。」と解答しております。
その理由は4つあります。

①自筆だと書く量が多い。
 自筆が敬遠される理由の多くは書くことが多いことです。一部、財産目録は印刷したものでも良いとなりましたが、依然として、遺言のほとんどの内容を自筆で書く必要があります。人間ですから、文字を間違ったりもします。文字の訂正方法も民法に定められています(民法968条2項)。高齢者になればなるほど、文字を書くことが苦手だといわれます。
 一方、公正証書遺言の方式であれば、遺言書は公証人が作成しますので、遺言者は自分の名前を書くだけで済むことが多いです。障害や病気で文字が書けなくても、公正証書であれば対応することができます。

②保管場所に困る。
 自筆証書遺言だと、書いた遺言書をどのように保管するのかが問題となります。見つからない場所に隠してしまうと、死亡後に相続人が発見出来ず、相続人が困ることになりかねません。また、見つけやすい場所に保管しておくと、遺産をもらえない親族が廃棄したり、書き換えたり、持って行ってしまったりする恐れがあります。そうでなくても、破損したり、火事で燃えたりする可能性があります。
 一方、公正証書遺言であれば、原本は公証役場で保管されますし、データとしても保管されますので、消失してしまっても再発行が可能です。また、相続人が全国どこの公証役場でも亡くなった方が遺言書を残していないか調査することもできます。

③無効になるケースもある。
 自筆証書遺言については、方式が法律で決まっており、印鑑がないとか日付がない等の理由により遺言が無効になるケースもあります。また、私の事務所に持ち込まれた自筆証書遺言は、遺言としては成立しておりましたが、その遺言で遺贈の登記を申請することは出来ませんでした。その理由は、物件や当事者の特定が出来ず、法務局の審査に通らなかったからです。せっかく遺言書を作成しても、法務局の登記申請に通用しなければ、意味がありません。
 一方、公正証書遺言であれば、作成時に登記申請のことまで考えて作成されますので、登記申請ができないということは、よほどのことがない限りありえません。

④死亡後に検認が必要。
 自筆証書遺言は、死亡後に検認が必要です。検認とは、家庭裁判所のHPによると、

「遺言書の保管者又はこれを発見した相続人は,遺言者の死亡を知った後,遅滞なく遺言書を家庭裁判所に提出して,その「検認」を請求しなければなりません。なお,公正証書による遺言のほか,法務局において保管されている自筆証書遺言※に関して交付される「遺言書情報証明書」は,検認の必要はありません。「検認」とは,相続人に対し遺言の存在及びその内容を知らせるとともに,遺言書の形状,加除訂正の状態,日付,署名など検認の日現在における遺言書の内容を明確にして,遺言書の偽造・変造を防止するための手続です。遺言の有効・無効を判断する手続ではありません。」とあります。
 検認のためには、被相続人や相続人全員の戸籍謄本、戸籍の附票等をそろえて家庭裁判所に申請をします。検認の手続きは、期日に相続人全員が対象になります。手続きを司法書士や弁護士に依頼すると費用もかかります。
 一方、公正証書遺言であれば、検認の手続きは不要となりますので、スムーズに遺産相続の手続きに移行することができます。

 

おわりに、上記4つの理由から、自筆証書遺言はあまりおススメせず、公正証書遺言を作成される方が多いです。

ちなみに、令和2年7月10日より、法務局にて自筆証書遺言書保管制度ができ、その制度を使うことによって、上記の②~④までのデメリットが無くなります。
しかし、私が知る限りでは、あまり利用者が多いとは言い切れないそうです。